「壮年帰農?」
                
                                
     小林 敏也
 

 私は、乳業会社に勤める43歳になるサラリーマンです。乳業会社に勤める者として、骨の健康については関心があり、何回か測定した骨密度は、同年齢の平均値の100〜105%。
一応、乳業マンとしては合格といったところでしょうか?

 研究所で、研究に没頭していた頃は、実験台を行ったり来たり、また、動物実験で動物棟を行ったり来たり、そして昼休みにはグラウンドで草野球とそれなりに体を動かしていて、骨の健康に良さそうなことはしておりました。ところが研究所から本社に転勤になってからというもの、すっかりデスクワークになってしまい、下手をすれば、一日中、イスに座ったままという状態。すっかり骨に対しては不健康な状況になってしまいました。にもかかわらず、辛うじて骨密度を平均に保てている秘訣は何だろうと考えてみた場合、一つにはさすがに職業柄、乳製品をよく食べること、そしてもう一つには、ここ数年、ちょっとハマッテいる、とある趣味が貢献しているように思います。

 一時、「定年帰農」という言葉が流行ったことがあったかと思います。定年後、趣味として家庭菜園等、農業を始めた、あるいは始めようとしているサラリーマンのことを指して使われた言葉かと思いますが、最近はあまりこの言葉を聞かなくなったような気がします。まさに団塊の世代が定年を迎えようとしている今、もう少しこの言葉がもてはやされてもよさそうなのに、あまり聞こえてきません。団塊の世代の方々は、その集団の大きさもさることながら、みな元気で、趣味等も多彩で、定年後の第二の人生も様々な可能性を秘めており、ひとくくりで「定年帰農」といった言葉ではその行動様式は現せないせいのかもしれません。

 また、「定年帰農」に代わる言葉として、「週末農業」や「クライン・ガルテン」といった言葉を耳にするようになりました。いずれもこういった言葉、考えは欧州から来たものらしく、都市あるいはその郊外に小規模な農園を借り、主に週末に農業を行うというライフスタイルを指すものと言えます。 私の骨に好影響を及ぼしていると考えるのがまさにこの「週末農業」、「クライン・ガルテン」!私の場合、「定年」まで待たずに、農業に目覚めた、回帰してしまったわけで、私は、勝手にこれを「壮年帰農」と呼ぼうかと思っています。

 この「壮年帰農」、実際に、何を始めたのかと言えば、2つのことを始めました。一つはグリーントラストの会員になったこと、そしてもう一つは棚田のオーナーになったこと。
グリーントラスト運動とは、緑を大切に考える市民一人ひとりがお金や知恵や労力を出し合って、身近な緑を買い取ったり、保全のための契約をしたりして、緑を守り、つくり、育てて次世代に伝えていこうという運動です。


  私が会員のグリーントラスト宇都宮では、いわゆる雑木林といわれる樹林/緑地4ヶ所と市内にある大銀杏の古木1本を守っていこうと活動しています。会員は、年間2千円(個人会員)あるいは3千円(家族会員)を寄付という形で支払い、個々人の状況、レベルに合わせて、様々な形で活動に参加しています。

 もともと、小さい頃、園芸に少し興味があって、自宅の小さな庭でチューリップ等を植えていたのですが、その際もどちらかといえば花が咲くのをみるよりは、秋に土に中に育った球根とること、すなわち“収穫”に楽しみ、喜びを感じていました。また、小さい頃、近くにはまだ雑木林があり、よくそこで遊んでいたのですが、そこが住宅地や人工的な公園に変わっていくことに、違和感、寂しい思いを感じていました。そして、乳業会社に就職し、栃木の研究所に配属になり、本社転勤後も家族の事情で宇都宮から通勤と、まだ東京に比べれば、自然/緑が多く残る場所に住むことになりました。 

 2004年の夏、市の広報で、近所にある鶴田沼という場所でサツマイモの苗植えの募集を見つけ子供らと参加、そこでグリーントラスト宇都宮の存在を知り、「これだ!」と。そして、2005年初めには新聞で棚田オーナーの募集を見て、また「これだ!」と思った次第です。

 私の場合、グリーントラスト宇都宮で維持管理している5ヶ所のうち、自宅から一番近い鶴田沼緑地の維持管理活動に参加しています。ここにはハッチョウトンボというトンボの貴重種も住む湿原があり、住宅地の真ん中にぽっかりとまさに都会の中のオアシスといった感じです。

活動に参加といっても、実際にはそこで開催されるイベント、体験作業に参加しています。里山体験と称した雑木林の下草狩り作業、玉ネギ/じゃやがいも/サツマイモ等の苗植え/収穫といった農作業に、月1回程度、子供らと家族みんなで勤しんでいます。


 また、棚田は、茂木町の山間部にあって、農家の高齢化等で荒れていたものを、地元農家と町が協力して、数年前に再整備し、オーナー制度という形で復活させたものです。
  春の田植えから始まり、秋の収穫まで、こちらも月1回程度、稲作作業に家族で参加しています。今は、収穫したお米はすぐに機械で乾燥してしまうのですが、ここでは竹で組んだ竿に稲穂を掛けて天日干しと昔ながらの作業でまさに手作りといった感じです。その天日干しの風景は、これぞ農村の原風景ということもあって、その風景を撮りたいがために、アマチュアカメラマンが盛んに訪れています。

 もともと、雑木林、里山といったものが消えていくことに、疑問、寂しさを感じていただけに、グリーントラスト運動、棚田のオーナー制度への参画を通して、たとえそれがイベント、体験作業への参加であっても、それが貴重な湿原のある鶴田沼やその周辺の雑木林の保全、荒れていく棚田、里山の復活に少しでも役立っていると考えるとそれなりの充実感を感じています。


  人工的な緑を作るのではなく、自然にあるものを、荒れない程度にありのまま保っていく点が重要と考えています。刈った下草や落ち葉が肥沃な土地を生み出し、そこに生える木々、棲む虫、植えた作物を育て、それらがまた、朽ちて、肥沃な土地を生み出す。この循環、繰り返しが大事と思っています。その循環の、ほんの一部ではありますが、そこに参加し、物を作り育て、“収穫する”喜びを味わえることに“しあわせ”を感じています。

 鶴田沼では腐葉土の中で大きく育ったカブト虫の幼虫を子供に見せることができました。また、棚田では、無農薬ということもあってか今では珍しいといわれる沢ガニやタガメが当たり前のように見ることができます。このような今では貴重な自然に子供たちを触れさせられることができるのもよい点と思っています。


  昔は農家のおばあちゃんというと腰の曲がった方が多くいらっしゃったように思います。当時の農作業は田植え、草刈り、稲刈りとすべてが腰をかがめた手作業で、それが影響していたのでしょうか?それが今、腰の曲がったおばあちゃんを見かけることが少なくなったような気がします。機械化が進み、作業内容が変わったこともあるのでしょうが、栄養状態も良くなり、全般的には骨の健康状態が良くなったからと考えられます。

 にもかかわらず、今後、骨粗鬆症患者が増えていくと予想されています。食事の質の低下、日頃の生活における運動の低下といったライフスタイルの変化が影響していると考えられます。骨の健康については、かなり年齢がいってからではないと気づかないもの。ただ、気づいてからでは手遅れです。機械化されてしまった今こそ、趣味で手作業の農作業に勤しんでみませんか。骨の健康への貯金のためにも、定年帰農ではなく、壮年帰農!お勧めです。