『 空と路地                 岩城 和哉  
                
いわき かずや   

建築家、東京電機大学助教授
1967年 鹿児島生まれ
1996年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)
1996年 東京大学大学院工学系研究科助手
2003年 東京電機大学理工学部建設環境工学科助教授
- 著書 -
建築巡礼37 『知の空間?カルチェラタン・クォードラングル・キャンパス?』(丸善)、他

- 建築作品 -
Y邸、O歯科医院、Fデンタルクリニック、I邸、そちく、そろじ、他
 
 ぼくは正直なところ「病院」があまり得意ではありません。行かなくてすむのであれば、一生それですましたいと願っています。が、実際はそうはゆきません。先日などは飯能河原でバーベキューをやった際に、焼きそばの中になんと石ころが紛れ込んでおり、それを思い切り噛んでしまいました。「ガリッ」という大きな音が脳内にこだまし、なんたることか、歯が一部欠けてしまいました。それからしばらく歯科医院通院の羽目に。そんなふうにいやいやながらもしばしば「病院」を訪れています。でもやはり何度訪れても慣れる気配はなく、苦手意識をぬぐい去ることができません。

 そんな病院アレルギーなぼくですが、実はこれまでに2件ほど「病院」の設計を手がけています。大田区上池台の戸建ての歯科医院の新築と、恵比寿のテナントビル内の歯科医院の内装です。いずれの先生も建築やインテリアに大いに興味を持っており、いわゆる「病院」的なデザインとは一線を画した空間を望んでいました。

 上池台の歯科医院では、通り側を全面ガラスにし、待合いと治療室は天井高さ6mのゆったり開放的な空間としました。さらにこの吹抜空間に面するようにガラス張りのテラスを2階に設けています。実はこのテラスは「空」を眺めるための建築的な仕掛けです。待っているあいだも、治療のあいだもこのテラス越しに、雲のながれをぼーっと眺めることができます。
                              (写真 右)


 

 恵比寿の歯科医院は診察室が個室です。治療の前に患者さんと向き合って症状と治療方法を説明し、それから診察台にすわってもらうという懇切丁寧な治療のためには個室が不可欠とのこと。問題は廊下です。個室にすると必ず廊下が発生し、これが「病院」のイメージを喚起させます。そこで、壁面に凹凸をつけたり、床にテラコッタを使ったり、光をコントロールしたりして、廊下を「路地」に仕立てあげました。(写真 左)

 

 こんな風に「空」とか「路地」といった仕掛けを駆使しながら、建築家の立場から「病院」のイメージの刷新をはかろうと試みています。超高齢化社会を迎え、医療費抑制のための予防の徹底等々、健康な社会を目指して人々が気軽に通院できるような制度なりシステムなりの構築が求められている昨今、空間づくりという視点からの取り組みもまた重要なんだろうなとふたつの設計を通して確信した次第です。ぼくのような病院アレルギー人間でも気軽に通えるような「病院」がどんどん増えてゆくことを願うばかりです。