「ガンや生活習慣病に効くお茶のすばらしい効用」
                                  国立遺伝学研究所・名誉教授
                                  静岡県立大学・麻布大学・客員教授
 黒田 行昭
                  
 

くろだ ゆきあき

 大正15年5月 奈良市の生まれ
昭和25年3月 京都大学理学部卒業
昭和25年〜41年 大阪大学医学部助手・理学部講師・助教授
昭和34年11月 理学博士(大阪大学)
昭和36年〜37年 NIH Postdoctoral Research Fellow (シカゴ大学)
昭和41年〜平成2年 国立遺伝学研究所 室長・部長・教授
平成2年3月 国立遺伝学研究所 定年退官・麻布大学教授
平成2年7月 国立遺伝学研究所 名誉教授
平成9年3月麻布大学 定年退職
平成11年3月 麻布大学 客員教授
平成12年3月 静岡県立大学 客員教授
日本組織培養学会・日本環境変異原学会 名誉会員
日本環境変異原学会・日本動物代替法学会 学会賞受賞
茶学術研究会 顕彰表彰

 昔から、私ども日本人が食事のとき最もよく飲む飲み物は「お茶」である。全国どこの食堂やレストランでも、席につくなり持ってくる飲み物が「お茶」であり、そこで「メニュー」を見て、食事の注文をする。最近は、ペットボトルの普及によって、コンビニや自動販売機でも各社の「お茶」が飲み物の大半を占める。今から約800年前、中国から伝えられた「お茶」が、戦国・室町時代に茶道として発達し、さらに江戸時代を経て、庶民のお茶として日本人の日常生活に欠かせないものとなった。

 高齢化社会を迎えた今日、「お茶」はガンや高血圧、糖尿病などの生活習慣病のほか、老人ボケの予防や治療にも有効であり、さらにカゼやエイズのウイルスにも効き、食中毒や院内感染の細菌にも殺傷効果があることが科学的に実証され、安価で誰にも手軽に飲める「お茶」の効用はますます広がりをみせている。ここには、このような「お茶」の効用と、その飲み方のポイントについて述べる。

 世界一の長寿国日本では、高血圧や心臓病と並んで日本人の3大死因といわれたガンが、1980年代に死因のトップに踊り出て、いまや日本人の3人に1人はガンによって死亡する。そしてこのガンによる死因の約70〜80%が、日常の生活環境によるもので、その中でも食事とタバコがそれぞれその3分の1ずつを占めている。

 茶どころ静岡県は、生茶の生産量日本一を誇り、川根や本山、掛川、藤枝など、銘茶の産地として全国的にもその名が知られている。したがって、静岡県ではお茶がよく飲まれ、疫学調査では、静岡県の胃ガンによる死亡率が全国平均の約80%と低く、とくに大井川上流の川根・本川根・中川根のいわゆる三川根では茶栽培農家が多く、お茶がよく飲まれ、胃ガンによる死亡率も全国平均の20〜30%と驚くほど低い。

 日本では昔から伝わる表・裏千家を始め多くの茶道の流派があり、それを指導するお師匠さんは、お弟子さんの指導の際抹茶をよく飲まれる。東京在住の50歳以上のお茶の先生3,000人余りについて、9年間にわたってその死亡率や死因について追跡調査が行われた結果は、東京在住の同年齢の一般女性と比較して、死亡率は約50%で、ガンや脳いっ血、心臓病などの病気の罹患率も極めて低かった。

 年をとると、血管にコレステロールなどが沈積して弾力性が失われ、硬くなって血圧が上昇する。高血圧のラットの系統を使って、エサに「お茶」のカテキンを与えると、その血圧は低下する。20〜70歳の健康な男子20人にお茶のカテキンを1日0.5グラムずつ3ヶ月服用してもらったところ、各人の最高・最低の両血圧が著しく低下した。

 ガンや高血圧と並んで生活習慣病として多いのが糖尿病である。日本人の糖尿病の患者は年々増加し、潜在的な患者を含めると1,000 〜1,500万人にも達する。糖尿病になると、血液中のグルコースの濃度が高くなり、これを放置すると、動脈硬化を起し、眼底の血管が破れて出血し、目が見えなくなったり、心筋梗塞を起したり、腎臓の働きがわるくなって人工透析を受けるような二次的な障害が現れる。お茶にふくまれるカテキンは、デンプンや糖が胃や腸でグルコースに分解されて吸収されるのを防ぐ作用を持っており、「お茶」を飲むことによって血糖値が低下し、これらの糖尿病に起因する二次的な障害を予防する。

 「お茶」のカテキンは、糖の分解や吸収を防ぐので、糖から作られる脂肪も減少する。人は年とともに血管が厚くなり、弾力性がなくなり、もろくなって破れ易くなる。これが脳卒中や心筋梗塞の原因となる。高血圧が長く続くと、血管の内壁に傷がつき、その傷に悪玉コレステロールがたまる。「お茶」カテキンを毎日続けて飲むと、3ヶ月後には血中の悪玉コレステロールが減り、体の各臓器の中性脂肪が減少する。

 人の老人ボケの一つにアルツハイマー病があり、記憶をつかさどる脳の神経細胞がその作用を失う。「お茶」に含まれるテアニンというアミノ酸が、この神経細胞の働きを維持するのに役立つ。毎年、冬になると各地でカゼが流行し、その原因の一つがインフルエンザウイルスである。静岡県内のある小学校で、学童全員に朝の登校時と夕方の下校時に、1日2回番茶のうがいを励行させたところ、周辺の小学校でインフルエンザが流行し、学校閉鎖や学級閉鎖が相次いだ時、その小学校だけは、学校や学級の閉鎖を免れた。

 「お茶」には、緑茶のほかウーロン茶や紅茶があり、いずれも原料は同じであるが、その処理、製造法が異なる。人の健康や病気に有効な「お茶」の成分は、茶葉に含まれる4種のカテキン類である。原料が同じでもこのカテキン量はその処理・製造法によって変化し、カテキン類が最も多く存在するのが「緑茶」である。それも、高価な「玉露」も安価な「煎茶」や「番茶」も含有量はあまり変わらない。ただし、「お茶」を入れるときの湯の温度がポイントで、カテキンを多量に浸出させるには100℃に近い熱湯が必要である。「玉露」をだす時のように60℃のような低い温度では、旨み成分である「アミノ酸」は浸出するがカテキンは出てこない。安い煎茶でよいから、これを100℃の熱湯で2〜3分浸出して、できるだけ渋い(これがカテキン)、濃いお茶を出して、これを飲んで多くの病気を防ぎ、いつまでも健康で長生きをしていただくことを希望する。