知と体           フラワー・ロボティクス株式会社代表取締役  松井 龍哉
 

まつい たつや
1969年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業。
MA, Ecole nationale superieure de creation industrielle,Paris 丹下健三・都市・建築設計研究所、IBM・ロータスフランス社、科学技術振興事業団・研究員を経て2001年より現職。
ヒューマノイドロボット「SIG」「PINO」で2000年GOOD DESIGN賞受賞、他にロボット「Posy」「P-noir」「Palette」「Platina」などの研究開発に注力。ベネチアビエンナーレ芸術祭、ニューヨーク近代美術館など出展多数。
東京大学、東京藝術大学、非常勤講師を経て2002年より早稲田大学理工学部非常勤講師。

 NY近代美術館のコンぺに見事優勝され、松井さんのロボットが当美術館にロボットとして初めて展示されたとのこと。世界的評価を受けた松井さんが、先日母校の小学校でNHKの「課外授業ようこそ先輩(2004.6)」で授業をされた。その授業の模様をたまたま拝見、今問題になっている教育のあり方を示唆した素晴らしいものであった。

 デザイナーとして仕事をしていると「健康」と向き合う時間を怠りがちである。しかし日々新たなアイディアや発想が求められるこの世界では、才能と健康は比例すると思うところがある。 人間の運動神経と脳は密接な関係にある。体調が悪く体が活発に動かない時は発想も貧困になる。運動と知能発達は同次元で語ることができると思っている。

 私のデザイン対象に人間型ロボットがある。これまで7種類ほどのロボット開発に関わってきた。ロボット研究には様々な分野があり一言でロボットといっても研究対象の全てはとても把握できない。医学も研究対象にとてつもない数があるが、ロボットの研究対象もまたとてつもない数になる。
 しかし様々な研究をしている研究者が一同に集まる学会等で、異分野研究者同士でいろんな話をすることがある。多くの研究者は結局、人間に興味があり、「人とはなんぞや?」と言う好奇心からロボット研究に当たっている方が多い。
 人類が哲学、宗教、科学、芸術と様々なことに興味を持ち研究、表現をしているが、私たちが知りたいことは「人は何処から来て何処へ行くか」という好奇心なのではないだろうか。

 現在では、ロボットは人工知能という研究分野と運動系のロボット工学が結びつき、知能ロボットの研究が盛んに行われている。知能は体とともに発達するからである。コンピュータにボディを持たせ、思考(あくまでもコンピュータ上の)に刺激を与えてみることで、変化を観察し、知に迫れるのではないかと考えるわけである。
 1997年コンピュータプログラムが人間のチェス世界チャンピオンに勝った。これはチェスという動きの無い世界だから出来たことであり、実生活のような動きや重力のある世界では同じことが同じようには起こらないのが常である。然るに実生活では経験や体から感じる情報を元に日々知能を発達させてバランスよく生きているのである。

 ロボット研究は人間を模倣しながら人間を観察する学問であるという側面がある。純粋な工学である面と文化的、哲学的な面も考えないわけにはいかないという面白い領域である。このまま行けば将来ロボットと人間の違いは何?ということになる。人間の定義はまだまだ曖昧なのである。
 人間は考える葦であるとパスカルは言った。考えることは頭だけで行われない。体の全てのバランスがあってはじめて思考をしているのである。ですから体の状態が思考に与える影響は計り知れない。よりよく行動するために体の健康から入るのは正しきことかなと思う。
 そもそも人間の体は60兆の細胞が何百もの異なる組織や臓器に分かれて働いている。それだけで大きな社会である。いい仕事をする為にも体といういい社会を保っていたいものである。