その1 骨は生き残る・白骨の証言
                                   明海大学歯学部歯科法医学センター長
 田島 義文
 

たじま よしふみ
昭和51年  城西歯科大学(現 明海大学歯学部)卒業
昭和52年  東京都監察医務院研修医(2年間)
昭和61年  城西歯科大学(現 明海大学歯学部) 口腔病理学教室助教授
平成 2年  日本病理学会認定口腔病理医
平成15年  明海大学歯学部歯科法医学センター長


 昨年末、北朝鮮拉致事件の焼却遺体の身元鑑定で、遺骨のDNA鑑定によって、拉致被害者の骨ではないことが判明したことはショッキングなニュースとして日本中に報道されました。法医学的には、家族から提供された拉致被害者の身体部分と、遺骨として政府関係者が持ち帰った骨のDNAを照合する作業を異同識別といっています。

 DNA鑑定とは、細胞内のDNAの塩基配列がヒトによって異なることを利用して、個人を識別する究極の個人識別法です。事故・事件の現場に残された毛髪や血液、体液などからDNAを抽出し、身元不明の遺体の特定や、親子鑑定でも利用されています。
 ヒトゲノム配列のなかには、DNAの短い配列が何度か繰り返えされる特殊な領域があります。この繰り返しはヒトによって異なり、そのまま遺伝情報として保存されますから、この領域の検査をいくつか組み合わせることによって、高い精度でヒトの資料から本人を特定することができます。これをDNA鑑定とよんでいます。指紋になぞらえ、DNAフィンガープリント(DNA指紋)ともよばれます。
 最近では、高性能の鑑定装置が開発され、変性・腐敗した古い資料や微量の資料からの鑑定も可能になってきています。このようなハイテク技術の進歩により、今回、北朝鮮が提出した遺骨は当該拉致被害者とは別人のものであることが判明したのです。まさに、日本人の”遺骨”に対する執念のなせる業だと驚嘆しました。

 通常、焼き場でヒトの遺体が火葬される温度は800度〜1000度ぐらいだとされています。今までは、このぐらいの温度で遺体が焼却されますと、残った組織のDNA鑑定は不可能だとされてきました。しかも、政府関係者は2度も火葬された骨を持ち帰ったという報道がありました。しかし、現代の日本のハイテク技術はみごとにこの定説を覆してしまったのです。相手国は、DNAは細胞核に存在するタンパク質であるから、高熱によって分解・消失してしまい、DNA分析は不可能であろうとタカをくくっていたことが想像できます。分析可能なDNAは細胞内のミトコンドリア(糸粒体)にも存在します。

 法医学は、異状死体の死因の究明のみならず、遺体の骨や歯からの個人識別も視野に入れた実践的な社会医学です。法医学的にみた場合、死体の軟部組織が分解・消滅しますと、死体は白骨化して、骨や歯などの硬組織のみが残ります。一般に、白骨化に要する日数は、地上死体で半年〜1年、水中では1〜2年、土中では3〜4年といわれています。
 ヒトが死んでも、硬組織である骨や歯はさまざまな異常環境のなかで長い間比較的安定に保存されるので、年齢推定、性別判定、人種推定、さらに遺伝情報の検査資料としても非常に有用となります。ちなみに、骨の海綿部の骨梁は30歳代にもっとも密で、増齢とともに粗になっていくことが知られています。
 また、骨の表面では、50歳頃から筋付着部を中心に骨棘が形成され始め、その後次第に伸長し、顕著になっていくといわれています。この骨梁の密度から、白骨死体のおよその年齢が推定できる訳です。

 白骨死体が山林の中から、あるいは土中から発見されたりしますと、警察は直ちに捜査を開始し、身元の確認を急ぎます。このようなときは、骨の外形態検査も重要です。まず、身元を確定するのに必要な年齢、性別などを検査します。
 例えば、頭蓋骨の場合は、成人男性では、前頭部の額部は、スキーのジャンプ台のように急斜面になっている場合が多く、眉毛のあたりの前頭部の眉弓はやや隆起し、後頭骨の隆起も突出気味になっていて、頭蓋骨全体はゴツゴツした感じがします。ところが、女性の頭蓋骨は、額部は断崖絶壁のようにきびしい傾斜になり、俗にいうオデコさんのような形状を示します。眉弓の隆起はなく、後頭骨の隆起もなだらかになっており、頭蓋骨全体は丸みを帯びてやさしい感じがします。
 このように、頭蓋骨の性差は意外とはっきりしています。また、下顎骨でも、男性では前方部の頤結節がやや突出気味でガッシリしており、女性ではやや丸みを帯びています。このほか、15種23個の骨で構成されています頭蓋骨の縫合状態によって、およその年齢を推定することも可能です。

 もの言わぬ死体(骨)がわれわれにもたらす情報は、法医学における重要な科学的物証の1つとして位置付けられています。骨は、ヒトが生きている間は、脳や心臓などの重要臓器を保護し、ヒトの死後も遺伝情報など大切な事実をわれわれに提供してくれます。ヒトの死後もまさに骨は生き残り、真実を語ってくれるのです。 (おわり)

 
  その2 目は口ほどに…
                            岡山大学医学部・歯学部附属病院矯正歯科 講師 上岡 寛
 

かみおか ひろし
1964年 徳島県生まれ。
徳島県立城ノ内高校卒業後(1期生)、徳島大学歯学部へ。同大大学院博士課程修了し、歯学博士を得る。
徳島大学歯学部歯科矯正科助手をへて、現在、岡山大学医学部・歯学部附属病院 矯正歯科 講師。

機械的刺激がどうして骨の形を変えるのか現在考え中。

 「自分の顔は自分で作る」とちまたで言われておりますが、果たしてそんなことできるのでしょうか。

 私は歯科矯正を専門としている歯医者です。歯並びや歯の咬み合わせを直すところです。日々の診療で思うのですが、歯並びを直すと患者さんの眼の表情が変わって来るんです。眼の持つパワー、輝き具合、眼の自己アピール性みたいなことが変わるんですよね。あと、その患者さんの全体の雰囲気も変わって来るんです。直すのは口元だけなんですが...。特に成人の患者さんは、治療開始頃の写真と治療終了後の写真を比べると、後の方がずっと「魅力的な目」になっているような気がします。

 あまり知られていない事ですが、歯科矯正には外科矯正というのがあって、これは上あごと下あごとが大きくズレている場合に、矯正治療と外科手術を同時に行って、上と下の歯がきちんと咬むように造りかえていくものです。例えば、顎が大きく突き出ていたり、顔が曲がっていたりする方々に外科矯正をお勧めしています。でも、この治療を受けられる患者さん達は、顔に手術を受ける事を決心される程に、ご自分の歯並びや顔の形を気にされていたわけです。そんな患者さんは気になっていた部分が改善され、ご自身の顔としてやっと受け入れる事が出来たのでしょう。術後は表情が豊かになり、自信に溢れた笑顔を存分に見せてくれるようになります。誤解なさらないように。「自分の顔を自分で作る」ために、手術を勧めているわけではありません。

 ご存知かもしれませんが人の顔は、顔面骨の上に表情筋と呼ばれる筋肉が乗っており、その上を皮膚が覆って作られています。ですから、人の表情というものは主に筋肉で作られているわけです。先ほどの例で考えてみますと、外科矯正によって口元が劇的に変わり、それまで患者さんの心を支配していた悩みが一挙に解消されたわけです。すると、その先にはすっかり晴れやかになった心が作り出す、自由な表情の表現へと変わっていかれるわけです。もう、笑うときに口元を手で隠す必要も無く、遠慮せずに笑うことで笑顔を作り出す筋肉を100%鍛えるようになる。つまり、一瞬の輝きを放つ笑顔を作るために、口元だけで無く、目元を含めたお顔全体の表情筋のエクササイズをしていくことになっているようなのです。

 これから考えてみますと、気の持ちようで自分の顔を変えてゆくことが出来ると言っても良いのではないかと思います。また、自分の好きな顔をもてるようにすることが心身ともにストレスを解消する健康法の一つ繋がるのではないでしょうか。 (おわり)