耳よりな話トピック
健康づくりを骨から始めましょう
今月のお話
執筆予定者バックナンバー

「活性酸素と老化」   
明海大学歯学部歯科薬理学講座
坂上 宏

著者近影さかがみ ひろし

1974年3月 東京大学薬学部卒業
1980年3月 東京大学薬学系大学院生理化学専攻修了(薬学博士)
1980年4月 昭和大学医学部生化学教室助手
1982年7月-1985年3月 アメリカニューヨーク州バッファロー市ロズウェル パーク記念研究所留学(c/o Dr. A. Bloch)
1987年 4月 昭和大学医学部生化学教室講師
1996年11月 昭和大学医学部生化学教室助教授
1997年4月 明海大学歯学部歯科薬理学講座教授 現在に至る

研究部長、国際交流委員長(2006年3月まで)
主な研究内容:ポリフェノール、特に、リグニンの基 礎的研究と歯科における臨床的意義、腫瘍選択的細胞傷害活性の高い物質のスクリーニング
趣味:ジョギング、クラシック音楽(ベートーベン、 シベリウス、ブルックナー)、学生と放課後の研究を楽しむこと

 老化とは、種を保存するための生物学的なルールであり、年齢とともに不可逆的に進行する分子的・生理的および形態学的な衰退を意味する。寿命は、行動や環境などの制御可能な因子(外因)と、遺伝などの制御できない因子(内因)により決定される。一般的に、寿命の長い哺乳類ほど体重が重く、代謝(酸素消費)速度が遅く、抗酸化能が大きい。加齢に伴い、酸化生成物であるペントシジンやカルボニル化タンパク質が増加する。ヒドロキシルラジカル(・OH)、スーパーオキシドアニオン(O2-)、一重項酸素(1O2)、過酸化水素(H2O2)などの活性酸素は、タンパク質、脂質、核酸等の生体物質を酸化して、細胞内小器官(オルガネラ)を損傷する。活性酸素は、DNAに種々の損傷を引き起こす。グアニンは、酸化されて7,8-ジヒドロ-8-オキソグアニン(8-oxo-dG)になる。これは、シトシン、アデニンいずれとも対合し得るので2回の複製の後チミンとアデニンの塩基対に変化してしまう。生物は、DNA修復能の獲得により、生命の存続を図ってきた。すなわち、この8-oxo-dGは、8-oxo-dG DNAグリコシダーゼにより除去され、その結果生じる脱塩基部位は、塩基除去修復の機能によって直され、グアニンとシトシン塩基対へと修復される。最近、老化に伴い特にストレス系の多くの遺伝子の発現が1.6-2.8倍増大することが判っていた、これは、老化に伴い活性酸素により多くの遺伝子が傷害(8-オキソ化、プロモーター活性の低下)を受けることに対処するための細胞側の応答を示しているものと理解される(Nature 429, 883-891, 2004)。

老化の内因説に、テロメア説がある。テロメアとは、染色体の末端にある染色体保護構造のことであり、(TTAGGG)nの6塩基配列の反復配列からなり、長さは、生殖細胞では9kbp、体細胞では1-4kbpであり、ヒト細胞1個あたり92個ある。テロメアのDNAは遺伝子としては転写されない。テロメアは、直接核膜に特異的タンパク質を介して結合しており、染色体相互の異常な相互作用を防止している。

 もし、テロメアが短くなれば、染色体の安定性が失われ、相互に結合したり、変形したりする。体細胞には、テロメラーゼ(内在するRNAを鋳型に用いてテロメアRNA末端に新たなテロメア繰り返し配列を付加する一種の逆転写酵素)による補充がないので、DNA複製の度に短縮する。1回の分裂当たり50bp(塩基対)ずつ直線的に減少していく。短縮速度は、正常人では、41±7.7 bp/年、ダウン症候群(早老症)では、133±15bp/年である。92個のテロメアのうち1個でも一定の長さより短くなれば体細胞分裂の停止を招く。また、短縮したテロメア部分で、くっつき合うと、染色体が不均一化する。テロメア短縮に伴い、テロメアを覆っているヘテロクロマチンが隣接部位(サブテロメア)を覆うと、各種機能が低下する。血管内皮細胞の老化においては、活性酸素が、テロメアの短縮を90bp/分裂(正常)から、500bp/分裂へと促進する。8-oxo-dGで実測される変異は、テロメア短縮と、p53による細胞死を促進する。

 酵母を、カロリー制限、すなわち、グルコース濃度の低下を2%から0.5%に減少すると、SIR(silent information regulator)2(NAD依存性ヒストン脱アセチル化酵素)の遺伝子を介して、寿命が延びる。インスリン/インスリン様増殖因子-1(IGF-1)経路の成分をコードする遺伝子が変異している動物は、寿命が長いが、酸素ストレスの応答を調節する遺伝子の転写を活性化するDAF-16タンパク質(Forkhead familyに属する)の活性が増加している。酵母でも、哺乳細胞でも、RASは、高濃度のミトコンドリアの酸化物質の産生を誘導する。これらの酸化物質は細胞老化を誘導するのに必要である。
哺乳類でも、長命なマウスでは、成長ホルモンやIGF-1のような分泌タンパク質が欠乏している。脂肪細胞でインスリン受容体が不活性化しているマウスでは、寿命が約20%延びる。IGF-1受容体が部分的に不活性化しているマウスでも同様である。DAF-16が増加すると、寿命も延びる。マイクロアレー解析により、若いマウスと老齢マウスではmRNAの発現が2倍違うのは、全mRNAのわずか1-2%であるが、これらは、酸素ストレス、炎症、全体的な代謝に関する遺伝子であることが判明している。これらの老化に伴うmRNAの発現の変化は、カロリー制限すると起こらなくなる。ヒトの老化と寿命は、カロリー制限により影響されるかどうかは不明である。

 老化に関して統一的な理論はあるのであろうか。フリーラジカルは、幅広い老化を説明する。ミトコンドリアの代謝が、栄養や酸素で増加すると、より多くの活性酸素が副産物として産生される。そして、細胞に有害な影響を与える。活性酸素の産生は、複雑に調節されている。活性酸素の一種であるO2-は、ミトコンドリアのuncoupling proteinを活性化してO2-消費を増加させるが、全体的には活性酸素を減少させる。活性化されたRAS遺伝子が発現すると、O2-の消費が減少し、活性酸素が増大する。線虫では、ミトコンドリアの機能を人為的に抑制すると、活性酸素の産生量が減少して寿命が延びる。変異によりDAF16を活性化させると、抗酸化物質をコードする遺伝子の発現が誘導され寿命が延びる。カロリー制限すると、Sir2の活性化が起こり、遺伝子発現と組換えが減少し、insulin/IGF-1経路の不活化により、酸化物質の生成が減少してフリーラジカルが除去される。フリーラジカル説は有用であるが、まだ実証されていないのが現状である。

 老化を遅らせ、寿命を延ばす治療としては、酵母においてSir2活性を増加させ、カロリー制限を模倣する試みがなされている。最近、レスベラトロールやブテインなどの抗酸化活性を有する植物性ポリフェノールが、試験管内でp53の脱アセチル化酵素活性を亢進して、酵母の寿命を70%延長することが報告された(Nature 425, 191-196, 2003)。また、insulin/IGF-1経路の部分阻害薬、Forkhead-family proteinを活性化する化合物などが候補に挙がっている。今後の研究成果が期待される。

  わんこ
コピーライト