耳よりな話トピック
健康づくりを骨から始めましょう
今月のお話
今月のお話執筆予定者バックナンバー

「ダイエット、しても骨丈夫?」   
キャスター・女優
石井 苗子

著者近影いしい みつこ

東京大学大学院医学系研究科健康科学看護学科、生物統計学/疫学・予防保健学博士課程在学中。高校卒業後、アメリカのルーテル教会牧師宅に住み込みボランティア活動を学び帰国後上智大学を卒業。水産庁外郭団体に同時通訳として登録、日米漁業交渉団で働く。
1988年より「CBSドキュメント」(TBS系)で初代女性キャスターを5年勤めたのちに「CNN週刊地球テレビ」(テレビ朝日系)のキャスターとなる。
1994年からは旧建設省河川局の政府答申案作成委員を5年間務めた。
91年に故伊丹十三監督の推挙で映画「あげまん」に準主役で出演し、事実上の女優デビューとなった後はテレビドラマなど主演多数。
97年に聖路加看護大学に入学看護師の資格を得たのち、東京大学大学院に進学、現代のストレスコントロール、住民健康診断と疫学調査を専攻している。
*7月5日(月)読売新聞35面 
探訪『再入学の現場から2』にて紹介される。
紙面では「今の努力が将来の原動力になる」と語られる。

 私は今、大学院で健康科学を専攻しています。副業で女優をやっているからかもしれませんが、ダイエットに関する取材が多くて、まいってます。「中年なのに太らない秘訣教えてください」。実際の私はちっとも痩せてないのです。苦し紛れに、間違ったダイエットをすると寿命を6〜10年も縮めてしまうこともあり、心疾患、大腸ガン、乳ガンなどのリスクと関係があるし、高齢化した時の骨にもよくないですよと申し上げると「で、どうすれば痩せられます?」。ようするに痩せることしか関心がないのでしょう。

 とにかくこぞって痩せたがる、それもかなり痩せていたい。お腹なんかペッタンコじゃないといけない。ダイエット情報を載せない雑誌は売れないそうで「痩せるダイエットの見分け方」なんてタイトルだとよく売れる。確かにテレビ局で会うタレントさんは骨に皮を貼ったような人が多くて、ウエスト46センチも珍しくありません。地下鉄に乗れば、痩せて長い付け爪にネイルアートを施した若い女の子が携帯メールに夢中になっているのを見かけます。骨の健康のために、働いて独り暮らしになっても、よい食材で食事を作りましょうねなんて、とても言えそうな雰囲気ではありません。そのお母さんたちも作ってなさそうです。

 最近お手伝いをしたシンポジウムで「そろそろ食生活を昔に戻しましょうと言うのを辞めましょう」と言ってしまいました。スライドに出てくる骨の予防のための献立メニューは、どう見ても若者が作りそうにありません。いかにもマズそうなのです。それよりコンビニ革命を起こして、年代に合わせた健康メニューを揃えたらどうかと発言しましたが、聞いてもらえませんでした。私の周りの若者たちを観察すると、24時間のコンビニと外食にしか興味を持ってないように見える。「寝ている時間を大切にしない。どれだけ起きている時間を長くして友達と連絡を取るかが問題で、大学の1時間目から机に突っ伏して終わりまで寝ている子もいるのです。家に帰るのが11時は当たり前だし、コンビニで何か買ってきて深夜テレビを見ながら寝る。だからいっそのことコンビニを健康マートにした方が救済措置になると思う。朝は会社の近くのコンビニで朝食を買ってオフィスで食事をしてから働き、昼もコンビニまで歩いて運動しながら遅くに食べてと、1日のサイクルをずらしたらよい」と言ったのですが、聞いてもらえず却下されてしまいした。

 取材の話題に戻ります。2番目によく聞かれるのが「明るい更年期の秘密」です。いくら年取ったからといって「ウツってる(鬱状態を感じること)ってあります?」なんてインタビュー昔はありませんでした。もはや言葉使いは諦めるとして、これは日本全体が高齢社会になったことを象徴しています。つまり日本女性の大多数が老いているということです。雑誌で堂々と更年期障害という見出しが組まれ、自分の体験を女優さんたちが話しています。「私の閉経は何歳」なんて、そのうち私も言ってるんでしょうか。始まりはみんな10代ですが、終わりは人それぞれ。昔は年齢も結婚も女性には聞かなかったものです。これも時代の流れと言うものかもしれません。

 しかし、女性の更年期障害についての研究はあまり多くはないのはどうしてなのでしょう。不思議に思い、ある男性医師に尋ねたことがありました。お答えが「用がすんだら早く死んでもらいたかったからじゃない?」には驚きました。イライラ、ほてり、のぼせ、動悸、不眠、めまい、手足の冷えなど訴えられても「閉経してますから仕方ないですね」と言っているうちに死んでいただけたのだそうです。だから研究も少ない。笑い話のようですが、日本の60歳以上の女性が具合が悪くても病院に行きたがらない現象は、実際にみられます。その理由のほとんとが「お金がもったいないから」。伝統的に日本女性の主婦は、年を取ったら身体の辛さを我慢して生きてきたのでしょう。寿命も短かった。

 しかし、最近は女性が90歳まで生きるかもしれない時代になりました。2010年には日本人口の4人にひとりが65歳以上です。これはもう日本の景色が変わるといっていいほどの変化です。千葉県の堂本県知事が女性外来を発案し構築したところ、ものすごい人気になりました。女性医師が更年期の悩みを聞いてあげる。この「傾聴」という行為が人気の秘密なのです。辛さを緩和してあげ、その後に骨の予防についてアドバイスをする。骨折して寝たきりのまま死ぬなんて、一番辛いのは本人ですよ、と言うと初めて骨の予防は大切かなと思っていただける。

 ダイエットばかり考えるのは辞めようかと感じてもらえるのです。この感覚が若い女性にも浸透すればいいのですが、なかなかそういかない。なぜなら彼女たちは、病気になったら薬を飲めばいいと思っているからです。

 先日ある製薬会社の骨粗しょう症治療剤の発表会に行ってきました。60代の女性が真っ赤なセーターを着て満面の笑顔をたたえ「閉経後の女性の骨粗しょう症に新しい選択」と書かれたポスターが何枚も貼られ、大規模な発表会とレセプションでした。選択的エストロゲン受容体モジュレーターに属し、新規推体骨折の発生頻度を低下させ、骨密度増加と骨の質を維持することができ、食事や時間に関係なく1日1錠飲めば治療になるそうですが、プラセボ対照とした臨床試験において、311例中117例に副作用が出たと報告され、ほてり、乳房緊満、嘔吐、多汗、そう痒、下肢痙攣、さらに重大な副作用として静脈血栓塞栓症とありました。

 静脈血栓症、肺塞栓症、網膜静脈血栓症が現われることがあるので、下肢の疼痛、浮腫、突然の呼吸困難、息切れ、胸痛、急性視力障害が認められたら投与中止と報告されてます。いずれも統計データの頻度を見れば、それぞれ数%以下ですから気にするほどのことではないのかもしれませんが、それでもなんとか飲まないですまないものかと思わせる新薬でした。

 アメリカでクリントン元大統領がSTAR研究というプロジェクトの中で、タモキシフェンとラロキシフェンでは乳ガン予防効果はどちらが有効かで、臨床試験一騎打ちが行われるといったニュースを読むこともあります。治療薬が他の疾患の予防薬として認められるチャンスもあるといった話も聞きます。日本は予防薬というのは認められることが少ないのはどうしてなのでしょう。骨粗しょう症のどの薬も、保険適用になるのは病気になってからです。治療薬といわれているカルシトニン注射も、痛みは緩和するけれど骨折予防薬としては効果がないと聞きます。その他の治療薬の中で、ビスホスホン酸、はり薬のエストラディオールも予防薬としては認められていないはずです。いずれも骨粗しょう症と診断されてからの治療薬、おそらく予防薬として保険適用になれば、それだけ医療費がかかるかもしれません。治療薬は副作用があるので用心しているのかもしれませんが、私はやはりどこかに用がすんだ女性は早くという思いが流れているのではと、かんぐってしまいます。アメリカは歴代2人の大統領「夫人」が乳ガンになってから乳ガン予防の研究に力が入ったそうですが、日本の場合、皇室の前立腺ガン手術で一気にPSA検診が増えたように、まだまだ男性が中心のようなのです。

 しかし更年期障害の問題は女性ばかりではありません。日本男性も長寿になりました。前立腺ガン手術がキッカケではないでしょうが、男性の更年期なんて言葉も聞かれるようになりました。一般的には原たいらさんが、更年期障害の実体験を話すことで、症状が健常化した?しました。高齢化や更年期について、5月14、15日に東京の時事通信ホールで行われた「日本動脈硬化予防研究基金」の研究報告会があり、高齢者の心疾患を中心に報告が約50例ありましたが、中でロシアとの共同研究者が面白い発表をしました。現在ロシアの平均寿命が57歳になっていると言ったのです。会場がシーンとなってしまいました。戦争のない欧米社会では初めてのことだそうで、経済破綻と生活環境の激変から来る「ストレス」がロシア人の寿命を変えてしまったのです。年金不足で薬が買えず、糖尿病、高血圧の治療できずに死亡する人が増加しているとのことで、50代男性の自殺者も多いそうです。

 発表者は「明日の日本をみるようです」と締めくくっていました。日本の年金と医療費の破綻を想像しての発言だったのでしょうが、薬が買えなくて死んでいく社会が未来にあるなんて想像したくありません。男性の高齢化は労働力の低下に直接つながる社会的ストレスがあり、責任を重く感じる男子が自殺に走るとは悲しい現象です。しかし世界にはそうした国もたくさんあるのだと思い出させてくれた発表でした。

 具合が悪くなったら薬を飲めばいいと思っている現代人も、薬が買えなくなる日を想像することがあるでしょうか。おそらく何も考えてないと思いますが、強烈な副作用に苦しむ前に予防薬の代わりになるサプリメントはないものかとは思っているようです。閉経後の更年期症状を訴える女性に、HRTに替わってアグリコン型イソフラボンをサプリメントとして与えると、吸収効果が高く粗しょう症と乳ガンを予防できると奨励している相模大野の女性クリニックを取材しました。

 エストロゲンが破骨細胞の働きをコントロールするのと同じ効果があるサプリメントだとして臨床にも使っています。しかし雑誌の見出しにはには「無理なく絶対に痩せるダイエット、1ヶ月できれいな体!」となっていて、男性の前立腺肥大や、前立腺癌を予防する作用もあることが確認されてありますと書いてありました。バイアグラみたいに副作用を味方につけて商売を始めるわけではないですから、ダイエットと男性の前立腺に訴えなくてもいいのにと笑ってしまいました。薬と違ってこうした記事に厳しい批判は来ないでしょうが、こうなると効果も緩慢なものかもしれないと思われはしませんでしょうか。

 しかし、緩慢な効果というのも一方では大切です。副作用がズラズラと書いていると薬は飲みたくなくなるものです。冒頭のコンビニ革命の話に付け加えるなら、緩慢効果のサプリメントは若者の健康指導になるかもしれません。もうすでにコンビニには並んでいますが、値段が高いし、種類も量も充実してはいません。「ダイエット、サプリメントで骨元気」なんてコピーでコンビニサプリメントを充実させ、爪の長い女の子の骨粗しょう症を予防するのも良い手だと私は思います。このアイデアもまた却下でしょうか。

 健康科学を専攻して、これからの人生をどうデザインしていこうかを考えるようになりました。人の気持ちを思うようになって、初めて自分の生活をデザインできるようになった気がします。聖路加看護大学で看護を勉強して、自分が病に対してあるいは病を持った人に対してどういった感情をもっているかを知ることができました。年を取ってから勉強することは、明日が昨日と全く違った日になるという希望が持てる。そう実感しました。これからも勉強は続けるつもりです。
ダイエットはやってませんけど。

  わんこ
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