耳よりな話トピック
健康づくりを骨から始めましょう
今月のお話
執筆予定者今月のコラム

「お腹の細菌となかよくしよう」
明海大学歯学部口腔微生物学講座助手
横塚 由美

著者近影よこつか ゆみ

香川県小豆島出身。 平成6年香川医科大学卒業。 内科・神経内科の研修を行った後、
香川医科大学大学院博士課程へ進学し、免疫性神経疾患の研究を開始。 東京医科歯科大学分子医化学教室、獨協医科大学神経内科へ研究留学。学術振興会特別研究員時代を経て、Johns Hopkins大学神経内科・神経科学へ留学。
帰国後、明海大学歯学部口腔微生物学講座助手。
現在の研究テーマは、「Guillain- Barr_候群の発症機序における粘膜免疫の関り」「酪酸の神経障害」。
趣味は料理、ドライブ。 週末は、ホームパーティーで夫と共に腕を振う。

横塚氏の他のトピック「野菜食べていますか」
横塚氏のコラム「骨美人になろう」もご覧ください

  小さい頃、父の書斎に「うんこによる健康診断 (日野貞雄著、光文社)」 という本があるのを見て、「もう、パパったら !」 と母といっしょに笑ったことがあります。私の父は現役で学校に勤めていた頃、鬼教頭と恐れられていましたが、そんなことが不思議なくらい自宅では愉快でした。 最近、「うんこ」が注目を集めているのです…。この本を選んだ父には、先見の目があったのでしょうか。

 「プロバイオティクス」 という言葉が、生活の中に急速に浸透しつつあります。 テレビ番組でしばしば特集が組まれたり、プロバイオティクスをキャッチフレーズにした食品がスーパーの一角を占めていたりします。プロバイオティクスの潮流は、予防医学の重要性および抗生剤治療の限界への認識を背景に、ヨーロッパから広まりました。 ヒトが本来持っている抵抗力を見直し、腸管内フローラ (細菌叢)をコントロールして健康増進に役立てようとするものです。フローラの名前は、細菌がびっしりついて、お花畑のように見えることからつけられました。 プロバイオティクスとは、抗生物質 (アンチバイオティクス)の反意語で、「消化管内の細菌叢を改善し、宿主に有益な作用をもたらす微生物」のことです。

 口から肛門に至る食物の通る部分は粘膜で覆われ、そこには100兆個以上もの細菌が生息しています。 「そんなにたくさんの細菌をお腹の中に溜め込んで大丈夫だろうか?」 と心配される方がいるかもしれません。お腹の「中」とはいうものの、食物の通る部分は体外で、外界と接している粘膜では免疫機構が常に細菌の動向を監視しているのです。 また、細菌 = バイキンと勘違いされることがありますが、そうではありません。ヒトの健康を積極的に助ける善玉菌と有害な働きをする悪玉菌、さらに中立で何もしない菌もいます。 中立的な菌の存在は、悪玉菌の繁殖を防ぐ効果があるので、積極的でなくても結果的にはヒトの健康に役立つと考えられます。 ところが、食物の摂取状況が悪かったり、風邪をひいた時などに処方された抗生剤が腸の中立的な菌まで殺してしまったりすると、腸管内フローラのバランスが崩れてしまいます。

 腸管内フローラは、加齢によっても変化していきます。 乳児の腸には善玉菌しか見られないのですが、離乳期から成年期までは中立的な菌が全体の9割を占め、善玉菌は1割程度に減ってしまいます。
悪玉菌の割合は、健康な成人の腸管内フローラの1割にすぎませんが、加齢と共に徐々に増加します。

  このように、加齢に伴う腸内細菌の勢力分布の変化をとらえたものが、「腸年齢」 です。 悪玉菌の中には発癌物質を生産するものもいます。 悪玉菌が増えると便秘がちになって、腸内が腐敗するため便やおならが臭くなります。「おじさんのおならは臭い」 は冗談ではなく、生命現象に基づいた事実のようです。 最近、若さに任せて不健康な食生活をするために腸の老化を進めてしまい、実年齢よりも腸年齢がずっと進んだ若者が増えていることが問題になっているようです。 以前、こちらのコーナーで野菜を食べない学生さんがひどい便秘に悩んでいることをお話しました(*トピック バックナンバー)が、彼の腸年齢は推定40歳です。

 消化管には100兆個以上、重さで1?もの腸内細菌もの細菌が生息しているのですから、食物の糟と共にそれらの菌が排泄されるということは容易にご理解いただけると思います。驚くべくはその数・・・便の1/3程度は腸内細菌の塊とされています・・・つまり、1日300gの便を排泄したとすると、少なくとも100gの細菌を排出していることになります。 毎日の便チェック (色、形状、におい、量) が健康のバロメーターになることはもちろんですが、どのような細菌が出てきているかを調べることで (ミクロの便チェックとでもいいましょうか)、消化管内フローラが健康に保たれているかを知ることができるというわけです。

実際に、腸の病気と細菌叢の関係を調べ、細菌叢カルテを作る研究が進んでいて、近い将来その報告がなされるようです。

 プロバイオティクスの代表である乳酸菌は、繁殖しながら乳酸発酵、つまり糖分を分解して乳酸を作る細菌の仲間です。乳酸菌は、ヨーグルトなどの発酵乳、チーズ、パン、味噌、醤油、漬物、ワインなどさまざまな食品に利用されています。一部の乳酸菌は、腸まで生菌として到達しプロバイオティクスとして働きます。 その他、ビフィズス菌、酪酸菌、納豆菌、酵母、ある種の真菌などが、プロバイオティクスとして利用されています。 プロバイオティクスと似た言葉で 「プレバイオティクス」 という言葉があります。

 プレバイオティクスとは、オリゴ糖や食物繊維のように食べ物に含まれる成分で、プロバイオティクスを有意に増殖させるものです。つまり、プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方を摂取しなければ効果は得られないのです。 仕事で細菌の培養を行っているせいか、細菌と細菌の栄養分を自分の口から注入してお腹で培養しているように感じます。 私の健康のために働いてくれる細菌達が愛しく思われます。
食物繊維はプレバイオティクスとして働くのみならず、悪玉菌の活動を抑え、老廃物の固まりである宿便を排出してくれます。また、腸内でコレステロールや中性脂肪、糖質、塩分の吸収を妨げる効果もあり、腸年齢を若返らせる救世主といえるでしょう。 プロバイオティクスや食物繊維を上手に摂って、お腹の中から若々しくありたいですね。

  わんこ
コピーライト