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「噛み合わせと転倒予防」
−口腔の状態および機能と身体的活動能力(生活体力)の研究から−
明海大学歯学部長・附属病院長
安井 利一

著者近影やすい としかず


明海大学歯学部長・附属病院長
昭和52年明海大学(旧:城西歯科大学)卒業後、大学院博士課程へ進み昭和56年同大課程終了、博士(歯学)の学位を取得。
明海大学助手(口腔衛生学講座)助教授を経て平成9年同教授となる。
同大学附属病院長となり、平成15年から同学部学部長を兼任し現在に至る。
その間、児童生徒の意識活動変容を中心とした学校保健活動についての研究活動を行っている。
また、スポーツ歯科医学の面から日本オリンピック委員会の一員として選手のサポートを行っている。
学校歯科保健の基礎と応用(医歯薬出版)など著書多数。

 わが国の平均寿命は急激に伸び、世界で有数の長寿国となった。これからの日本が生き生きとした活力のある社会であるためには、高齢者が自分の身の周りのことは無論、社会生活に進んで参加出来るような基礎体力が必要であろう。国は健康増進対策として、1988年から第2次国民健康づくりを推進してきた。これに続いて、2000年から実施している(健康日本21)総合戦略では、健康づくりへの対策として生活習慣病の予防が中心課題に取り上げられている。そして、具体的な対策として、適切な栄養と食生活、適切な運動と適切な休養の指導が提言されている。体力の増強に必要な運動習慣では、小児期からの運動習慣や小児を取り巻く環境のよしあしが、成人期以降の運動習慣にも影響すると言われており、小児期からの運動習慣が重要視されている。また最近、口腔内の状態、特に歯の咬み合わせ状態と運動との関係が大きな関心を呼んでいる。例えば、スポーツ選手にとって歯の咬み合わせは大変重要であり、オリンピック選手は全身のみならず口腔状態もメディカル委員会で管理されている。

 一方、高齢者の寝たきりは骨折によることが多く、その骨折は転倒が70%と最も多いという結果が厚生労働省の調査で明らかとなった。そこで最近、私達は身体的活動能力の指標としての日常生活の活動と咬み合わせの状態がどう関係しているかを調べた。その結果をもとに咬み合わせの大切さ、さらにその高齢者の転倒防止への可能性を含めてまとめてみた。

グラフ 
まずその結果を要約すると(図1)、身体的活動能力の指標である起居能力(寝ている状態から起き上がる動作)、身辺作業能力(ロープを片足ずつ踏み越える動作)、歩行能力、手腕作業能力と総咬合力(咬み合わせ方)の関係では、体全体を動かす起居能力、身辺作業能力ともに動作の速い人は遅い人に比べて総咬合力が高いこと。その他の歩行、手腕作業能力でも統計的には有為ではないが、速い人と遅い人の間では同様の傾向が見られる。体を速く動かすには歯の咬み合わせ状態がいかに大切であるかが伺える。また、上下の歯の接触面積(咬み合わせ方)と生活活動の関係では(図2)、咬み合わせが普通(正常)の人は、狭い人に比べて反応時間が短く行動が敏速であることが明らかになった。
グラフ2

 以上の結果から、口腔の状態、特に歯の咬み合わせ状態が、我々の日常生活でのいろいろな活動にすごく大きく関わっていると考えられる。特に体全体を動かす時には大きな咬合力が必要であり、そのためには、なるべく1本での多くの天然歯で、しかも良い咬み合わせ状態を保つことが大切であると考えられる。歯は咀嚼、発音、審美的な役割だけでなく、日常の活動にも大きく関わっているということである。体の動きが俊敏で、しかもバランスの良いことは、当然転倒防止にもつながることであり、私達は若いときから歯の大切さを認識し、健全な歯の維持に努めることが肝要であろう。その結果、老後、明るく生き生きとした活動的な日常の生活につながると思う。

  わんこ
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