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ツール・ド・モンブラン(モンブラン山群一周)の旅
〜<<後編>>〜

歯科医師
生木 道郎

生木先生写真なまき みちろう

1935年 東京生まれ。
1960年 大阪大学歯学部卒業。
現在、千葉県松戸市にて生木歯科医院を開業。歯科医師として活躍中。
マイオドントイック研究会代表。
趣味は山歩きであり、自然と親しんでいる。
当世話人の久米川とは大阪大学時代の同級生。

 5日目(7月29日)朝6時の気温は6℃。さすがに寒い。天気は相変らず晴。朝食を済ませて出発。いきなり急登であるが、尾根道に出ると、眼下に昨日歩いたグラシェの谷とモッテの小屋が見える。更にしばらく登るとお花畑が広がり、セイニュのコルに近づくにつれて、左にモンブランの頭が見えてくる。セイニュのコルはフランスとイタリアの国境である。

モッテの小屋 ここからの眺めも素晴らしい。モンブラン(4807 m)、ノアール針峰(3772 m)、グランドジョラス(4208 m)、遠くにスイスの山グラン、コンバン(4314 m)が雪を抱いて見える。
10名みんなで整列して、「せいの!!」でいっせいに足を踏み出して国境を越える。全員感激の渦に浸る。しばしこのコルで休憩、シャッターの音がしきりに聞こえる。 

 休憩後、数ある谷の中でも最も美しいといわれるベニーの谷へと向かう。ベニーの谷は広々としていて、一面のお花畑である。谷いっぱいにピンクと黄色の花々がじゅうたんを敷き詰めたように広がっている。これほど美しい谷は見たことがない。誰かが、ここは天国だと言ったそうだが、まさしくその通りの眺めである。ここでも写真を撮ったり周囲の景色を眺めたりして、その巣晴らしを全員が堪能した。

モッテの小屋 ベニー谷の景色ををゆっくり眺めながら、今日の宿であるエリザベッタ小屋へ。この小屋は谷を少し登った小高いところにあるが、後ろは氷河、眼下にはコンパルの湿原を見る見晴らしのよい小屋である。陽気なイタリア人の一家が経営していて、日本語を発しては我々を楽しませてくれた。ミネストローネと豚肉の素焼きは、とてもおいしい。

 6日目(7月30日)朝早くテラスに出る。グラン、コンバンの上から出てくる日の出を見る。
下方には、コンパル湿原に朝陽が反射している。寒いが素晴らしい光景である。小屋を出発して湿原に降りる途中、岩のうえにちょこんとマーモットの姿が見えた。我々を見送ってくれているようだ。

 今日はコンパル湿原の横から登り、約2300 mの峠を越える予定である。出発して約1時間、コンパル湿原(1970 m)に映えるモンブラン山群に見とれる。山上湖に映る山々は、まさに絵である。シャモニーから見えるモンブランは、どちらかといえば女性的なたおやかな姿であるが、ここイタリア側からのモンブランは、烈しく切り立っていて、むしろ男性的である。

モッテの小屋 ここからは結構きつい登りになる。登りきると、ノアール針峰が間近にみえた。なかなか見ごたえのある山である。峠に着いて休憩していると、反対側の谷からアルプス越えの牛の行列がやってきた。カウベルを鳴らしながら1頭1頭が目の前を通りすぎる。我々は動くに動けず、100頭以上の牛が通過するのを、じっと見送った。牧草地を求めて移動するのだろう。それにしても見事な行列だった。しかしそれだけで終らなかった。牛の通過した後の登山道には、牛達の新鮮な置き土産が湯気を立てている。避けて歩くのに苦労した。ようやく置き土産の途切れたその辺りが、牛達の出発点だったらしい。

 ゴンドラの乗り場、プラン、シュクルイまで、ヨーロッパ・アルプスの可愛い動物、マーモットを見ながら歩く。ゴンドラでイタリア北部のリゾート地、クールメイヨ―ルの街に降りる。ここから先はモンブラントンネルがあり、景色もそれほどではないので、ショートカット。

 昼食後路線バスでアルプノーバーに行く。ここはもうフェレの谷、この谷も山と氷河に囲まれている。1時間30分ばかり歩いてエレーナの小屋に着く(2067 m)。この小屋はなかなか設備が良く、ほとんど山岳ホテルなみだった。食事は、トマトソース味のパスタと牛の煮込み、やはり美味しい。

 7日目(7月31日)朝起きた時には雨が降っていたが、出発の頃には上がっていた。しかしかなり冷え込んでいて、防寒着をつけて出発。約2時間ばかりでフェレの峠(2537m)に到着。
ここはイタリアとスイスの国境である。セイニュの峠(フランスとイタリアの国境)からみたグランド・ジョラスは、はるか遠くに見えたが、ここからは間近に見え、ずいぶん歩いたものだと我ながら感心した。

 休憩した後、またみんなで、いっせいに国境越えをしてスイス領に入る。高山植物が咲き乱れるなか、緩やかな下りである。途中羊の群れをみたりシャッターチャンスを求めてマーモットを追いかけたりして、フェレの村を通過、フーリーのバス停に着く。ここから路線バスに乗り、今夜の宿泊地シャンぺに向かう。

 シャンぺは、美しい湖のあるリゾート地である。森に囲まれ澄んだ湖面に山々がその姿を映している。目を転じれば、グラン・コンパンが雪を頂いて聳え立っている。今日の宿は、、フロントがどこにあるのか分からないようハイカー専用のホテルで、ベッドも大方2段ベッドだった。ここでも食事、骨付きチキンの煮込みは、美味しい。

モッテの小屋 8日目(8月1日)シャンぺからバスでシャモニーの東端のル・トゥールへ行く。ここからゴンドラでバルムの峠(2191 m)へ。ここにはスイスとフランスの国境があり、我々一行は再びフランス領へと足を運び、ル・トゥールまでハイキング。このハイキングが、最後のクライマックスであった。
峠から見下ろすと下はシャモニーの町、そして真青な雲ひとつない青空を背景に、右には赤い針峰群、左には真っ白な雪を頂いたモンブラン、モンブラン針峰群、ドリュー、ヴェルト針峰、シャルドネ等のモンブラン山群。感激に浸り、歓声を上げては、ゆっくりと降りていった。

 これまでの7日間の道のりは、この眺望のための準備だったのか、とさえ思えた。日本百名山の深田久弥氏は山頂に立って言葉に表現出来ないような素晴らしい景色に出合うと、「あかずに眺めた」という言葉を使うが、まさしくその表現がぴったりの眺望であった。昨年はその頂きを見ることが出来なかった白い女王・モンブランを、今年はあかずに眺めることができた。

 今回のモンブラン一周の山旅は、苦しくも楽しいものであった。我々一行のうち60代は我々夫婦のみ後はみな50代、体力の違いも知らされた。しかしそれに余りあるのは、やはり歩くにしたがって刻々変わる景色の素晴らしさである。やっとの思いで峠に辿りつく、するとそこに思いもかけない光景がひろがっている。ひとつの谷から峠を越えて次ぎの谷へ行く。この峠を越えたらどんな景色が待っているのか、楽しみながら歩く。

 また5つの谷を歩いたが、谷歩きの前半と後半では、その眺めは、ガラッと変わるといっても言い過ぎではない。このような飽きることのない、感激、感激の連続のモンブラン一周の旅であるから、ガイドの中島さんによると、幾人ものリピーターがいるというのも、分かる気がする。

 それにしても、この旅を無事終えることが出来たのは、ツール・ド・モンブランに行くぞと決心してからの1年間、それを想定しての訓練が役に立ったものと思う。遊びとはいえ、目標をもつこと、夢をもつことは、心身を活性化してくれるようである。

<<終わり>>

生木先生のコラム(2003 9月号)もご覧ください  わんこ
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