耳よりな話トピック
健康づくりを骨から始めましょう
執筆予定者バックナンバー

ゲーリック病 栗栖 浩二郎
ウロコを用いた新しい測定系の開発と医療への応用:
ウロコはヒトの骨のモデルになる
鈴木 信雄
Certfied Clinical Densitometrist(認定骨量測定士) 福永 仁夫

ゲーリック病

 
栗栖 浩二郎

著者近影くりす こうじろう


1937年広島県生れ。63年 大阪大学歯学部卒業.67年 大阪大学大学院医学研究科(解剖学専攻) 修了。71年 九州大学歯学部助教授.72〜74年 アメリカ合衆国NIH (国立衛生研究所) 客員研究員を兼任.77年 九州大学歯学部教授。
91年大阪大学歯学部教授。2001年 大阪大学を定年退職。同名誉教授、01年 行岡保健衛生学園顧問。大学在職中は歯の発生を主なテーマとして研究に従事したが、現在は医療現場での活躍を目指す人たちの教育に携わり、彼らから若いエネルギーをもらっている.。主な著書は『口腔の発生と組織』、『歯科インプラント』、『標本で学ぶ口腔の発生と組織』。趣味は写真。

 最近、ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜選手の活躍ぶりが連日のように報道されているが、1930年代そのヤンキースの4番バッターであった伝説的名選手にルー・ゲーリッグがいる。彼が現役で活躍中に罹り、突如として球界から消え去る原因となったため、アメリカでゲーリッグ病と呼ばれる病気がある。わが国では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、最近では運動ニューロン疾患(MND)とも呼ばれている原因不明の神経難病の一つである。ALSは、多くは中年以降に発症し、2〜3年の経過で筋萎縮、筋力低下が急速に進行し、呼吸麻痺で死に至る。病変の起こる場所は、大脳皮質から脳幹や脊髄の運動神経路、脳幹の顔面神経核、舌下神経核、脊髄の前角細胞と前根、末梢の運動神経である。症状は、顔面筋、舌筋、四肢の筋肉に筋力低下と萎縮が始まり、徐々に進行してゆく。全ての運動機能が障害されてゆくが、眼球運動、排尿便は正常のままである。一方、感覚を伝える神経系や大脳の精神活動には遅くまで異常が見られない。感覚や精神活動が正常のままで、全身の運動の自由が徐々に奪われてゆくことの患者自身の深い絶望感と悲嘆、それを見守る家族の精神的苦悩と肉体的負担の大きさは想像を絶するものがある。

 私は、それまでこれといって大きな病気を患ったことはなかったが、ちょうど阪神大震災が起こった頃だったので、今から約8年前になるが、突如不快な全身症状に襲われた。弱いこぶらがえり様の痛みを伴った痙攣が、主に四肢の筋肉に30分から1時間くらいの間隔で間歇的に起こるもので、最初前腕部で始まったが、のちに大腿、下腿、上腕部に徐々に広がった。

 神経内科の専門医を受診し、MRIを含む様々な検査を受けたが、原因は不明であった。若い時の交通事故による軽い頸椎の変形からくるのもではないかと、整形外科で頚部の牽引をうけたり、鍼灸治療を試みたが殆ど効果がなかった。ちょうどその頃、知人がALSの疑いと診断されたことを知っていたので、もしかして自分もALSではと、非常に不安な気持ちに襲われた。大学の図書館などで神経内科学を中心とした種々の参考書を読みあさった。

 最初のうち症状は顔面筋には無く、頚から下の体部の筋肉だけに起こっていたので、自分の病変は、顔面筋を含む全身の骨格筋が侵されるALSではなく、頸椎の変形からくるものと素人なりに“診断”していた。しかし、そのうち咬筋などの顔面の筋に痙攣が現れ、非常にショックを受けた。
頸椎の変形で圧迫されるのは脊髄神経であり、顔面筋を支配している顔面神経や下顎神経に影響が及ぶことはあり得ないはずである。顔面筋にも症状が現れたことによって、ALSではとの恐怖感をうち消す密かな拠り所がつき崩された訳であり、この時の精神的衝撃の大きさは、今でもはっきりと記憶している。

 ALSの特徴的症状の一つとして、筋肉のこまかな痙攣である筋線維束攣縮があるという、これは1つの前角細胞に支配される最大200の筋線維でみられる急速な不随意収縮で、ピクピクとした局部的な筋収縮として皮膚の上から観察できる。脊髄の前角細胞や脳幹の運動核の疾患によくみられるとされている。私の場合も、これによく似た症状が見られたのでALSではとうい不安感はますます強くなった。もっとも、筋線維束攣縮は健常者でも疲労時などに出現することがあるというが。

 痙攣はそのうち腹壁の筋にもおよび、上腹部から下腹部に向かって移動を繰り返すようになった。
個々の腹筋は数個の筋節から発生するので、一つの筋が数本の区域神経によって支配されることになり、個々の腹筋の部分的収縮が可能になっている。つまり、われわれ哺乳類の胴部は、進化的に昆虫などと同様の分節構造を留めている。私は発作の苦痛を通じて、人類が辿ってきた進化の名残を自分の体の中に実感することにもなった。

 ALSに対する大きな恐怖感と、特有の全身的筋肉痛と違和感は、当時頻繁にテレビで報じられた阪神大震災の衝撃的な映像によってさらに強められる気がした。こうした私の憂鬱な日々は数ヶ月間続いた。しかし、春から初夏にかけ、神戸の街が徐々に復興に向かって動きはじめ、不通になっていた新幹線が開通するころになると、私の症状は幸いにも徐々に軽減してゆき、ALSへの不安感からも解放されてきた。症状の軽減に効果があったのは何であったのか未だに分からない。
整形外科で処方してもらった器具で、毎日10分間根気よく頸部の牽引をしたのが効いたのかもしれない。しかし、そう確信する決め手はない。今でも筋肉は少し硬いが、痙攣や痛みは殆ど無い。
あれだけ苦しめられた症状の原因は、専門医に尋ねても分からないままである。神経系の病気にはまだまだ分からないことが多いようだ。ともあれ、ALSと阪神大震災とは、私の記憶の中では強く結びついている。

 

ウロコを用いた新しい測定系の開発と医療への応用:
ウロコはヒトの骨のモデルになる

 金沢大学自然計測応用研究センター 臨海実験施設 鈴木 信雄
 東京医科歯科大学 教養部
服部 淳彦

すずきのぶお


 1964年富山県生まれ、1988年富山大学大学院修士課程修了。
水産会社研究員を経て、広島大学で学位取得(理学博士)、現在金沢大学助手
ウロコの測定法を用いて骨代謝を研究している。さらに、そのデータをヒトの医療に役立てたいと考えている。

 はじめに
 水俣病が発生した背景には、漁民の食生活があげられます。彼らの献立と言えば、魚の刺身、焼き魚、煮魚、魚のアラの入った味噌汁という具合で、魚を主食のような感覚で食べています。それゆえ、水銀を多量に含んだ魚を、通常のヒトよりも過剰に取り、水俣病へと発展しました。
このように、魚はヒトの食生活に大きくかかわっています。
したがって、魚の研究と言えば、食生活に密着した養殖に関する研究を、思い浮かべる方が多いのではないのでしょうか。しかし魚は、ヒトの医療や治療にも実際に役立っています。
 高齢化社会を迎え、6人に1人が65才です。それに伴い生活習慣病が注目されるようになりました。その一つが骨粗鬆症(こつそしょうしょう)です。
この病気は、骨を作る細胞(骨芽細胞)と骨を壊す細胞(破骨細胞)のバランスが崩れ、壊す細胞の方がまさり、大根に鬆(す)(細かい無数の穴)が入ったような骨になることです。
今、この病気の治療薬として使用されているのが、サケやウナギのカルシトニンというホルモンです。これら魚のホルモンはヒトのそれよりも強く、破骨細胞の活性を抑える働きがあります。現在、魚のカルシトニンはヨーロッパやアメリカでも使用されており、各国で治療薬として認められています。しかし、魚におけるカルシトニンの作用はまだよくわかっていません。
そこで、魚におけるカルシトニンの働きを調べるために、ウロコを用いた新しい測定系を開発しました。

 魚のウロコを用いた測定系の開発
 なぜ骨に対する作用を調べるのに、ウロコを用いるのかと疑問に感じる方もいるかと思いますので、そこからお話したいと思います。
  魚は水中に生活していることから、脊椎骨からのカルシウムの流出を防ぐため、脊椎骨には細胞がなく、骨髄もありません。ところが、ウロコには、破骨細胞と骨芽細胞とが同時に存在し、魚は脊椎骨ではなくウロコからカルシウムを出し入れして、血液中のカルシウム濃度を調節しているのです。
さらに、ウロコのカルシウムもヒトの骨と同じハイドロキシアパタイトの形で存在しています。したがって、魚のウロコはヒトの骨を薄く輪切りにしたような物であり、魚のみならずヒトのモデルとしても使用できる可能性があります。このウロコを用いた新しい測定系の特徴として
1)ヒトの骨細胞(特に破骨細胞)の培養は容易ではないが、ウロコにはその表面に細胞が存在している。したがって、酵素処理などの煩雑な操作をすることなく、そのまま培養できる。
2)同一個体から、200枚前後取れ、一度に様々な条件で実験できる。
3)たった1枚のウロコで測定できる。
4)破骨細胞及び骨芽細胞に存在する特異的な酵素(ここではそれぞれ酒石酸抵抗性酸フォスファターゼとアルカリフォスファターゼ)の活性を測定することで、これらの骨細胞の活性を容易に測定できる。また、両酵素の活性は、同じ基質を用いて測定できるという利点もある。
5)短時間の培養で効果がみられ、簡便かつ迅速である。
6)材料として用いているキンギョは年中入手できる。
ということが挙げられます。


 ウロコの測定系の応用
 この系を用いて、カルシトニンは、破骨細胞の活性を抑制することを実証しました。したがって、魚においてもカルシトニンは、骨代謝に関与していることがわかりました。
さらに最近、松果体から分泌され、睡眠等の体内リズムの調節に関係しているメラトニンというホルモンが、破骨細胞や骨芽細胞に対して抑制的に作用することも脊椎動物を通じて初めて明らかにしました。これらの変化は、骨芽細胞で発現しているホルモン(インスリン様成長因子-1)や女性ホルモンの受容体遺伝子の発現を低下させることによって引き起こされていました。また、カルシウム代謝に関与しているホルモン(副甲状腺ホルモン、インスリン様成長因子-1、インターロイキン1、ビタミンD3)の作用をこの測定系により調べてみると、哺乳類で知られている作用とほとんど一致しました。 
一方、このウロコという骨のモデルを用いて、ホルモン以外の物質に対しても調べております。
例えば、環境ホルモンの1種であるビスフェノールAは生殖だけでなく、ウロコ自体にも直接作用し、破骨及び骨芽細胞の活性を抑えることが、この系により証明されました。さらに、ビスフェノールAは血液中のカルシウム濃度を下げ、カルシトニンの分泌を抑制することも、キンギョを用いた実験により明らかになりました。したがって、環境ホルモンは骨代謝に悪影響を及ぼしていることがわかりました。
これは、最初の報告になります。
従来カドミウムは腎障害を引き起こし、その2次的な作用により、骨軟化症(イタイイタイ病)になると言われていました。しかし、カドミウムの骨に対する直接的な作用もみられました。その作用は、極めて低い濃度(10兆分の1モル濃度)でもみられ、重金属に対する検出系としての有効性もでてきました。さらに、電磁界の刺激により骨形成が促進される可能があることから、それを利用した治療方法も実際に行われています。しかし、基礎データは少なく、経験的なことから言われているにすぎません。そこで、このウロコの系で調べると、実際に磁界刺激が骨形成に有利に働いていました。 このようにウロコを用いた測定系は、ヒトの骨のモデルとなり、様々な薬物や磁界の働きを評価できる可能性が示されました。

 今後の展望
 最近哺乳類において、破骨細胞の活性化には骨芽細胞との連絡が必要であることがわかってきました。したがって、骨に対する物質の効果を正しく評価するには、両方の細胞を共存させて培養する必要があります。しかし、これらの細胞を共存させて培養することは、非常に難しいのが現状です。
キンギョは年中一定の大きさの個体を購入でき、購入後ウロコを採取するのみで、すぐに培養することができます。30分もあれば十分です。細胞の調整などの細かい操作をする必要がありません。 したがって、骨代謝に関係する物質の作用を容易に評価できます。
今後、この測定系を色々なホルモンや環境汚染物質に対する影響を調べるだけではなく、食品中に含まれる様々な有効物質の検出にも応用し、骨疾患の予防にも役立てたいと考えています(図参照)

その1その2その3

Certfied Clinical Densitometrist
(認定骨量測定士)

川崎医科大学 放射線医学(核医学)
福永 仁夫

ふくながまさお

1970年 京都大学医学部卒業。
1981〜83年 University of California(San Diego)でカルシウム内分泌の研究に従事される。
1989年 川崎医科大学放射線医学(核医学)教授となる。
主な研究分野:骨量測定、骨マーカー、骨粗鬆症、悪性腫瘍の骨転移、骨の画像診断、骨核医学。
日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事、日本骨形態計測学会理事、日本核医学会理事。

 高齢化人口が増加するとともに、老化に伴う退行性疾患が増加することは広く知られています。
骨の退行性疾患の一つである骨粗鬆症に合併する骨折は、患者のQOLを損ない、死亡率を増加させると報告されています。そのため、骨粗鬆症の早期発見と予防が重要になります。骨粗鬆症の診断には低骨量の存在が欠須であり、治療効果の評価にも骨量増加の所見が大きな意味をもちます。

 このように、骨量測定は骨粗鬆症の臨床に欠くことのない手段であり、現在日本では1万台以上の装置が稼動しています。

 骨量測定装置は、骨密度を定量化するので、QC(装置の質の管理)とQA(測定法の質の保証)を良好に維持することが大切です。

 従来から、骨量測定を担当する医師、放射線技師に対する技術的なトレーニングの必要性が指摘されており、日本放射線技術学会では「胸・腰椎X線撮影法と骨塩定量法の基準化−dual energy X-ray absorptiometry(DXA)における骨塩量の標準定量法と装置の基本性能評価法−」(日放技学誌 55:165-187, 1999)を公表し、放射線技師に骨量測定の標準化を広く啓発しています。

 医師に対しては、骨粗鬆症の治療薬の臨床治験時や、日本骨粗鬆症学会でのワークショップなどで、骨量測定技術の指導や教育がされていますが、十分ではありません。

 今回、埼玉医科大学中央検査部 板橋 明教授の御尽力により、International Society for Clinical Densitometry(ISCD)のトレーニングコースが平成15年1月12日(日)と13日(月)の2日間、東京(都市センター)で行われました。講義の内容は、骨粗鬆症の概要、骨量測定の基礎、放射線科学・被曝防護・QA、骨量測定の臨床利用、DXAのQC・計測・解析、骨量測定による骨粗鬆症の診断、骨折リスクの評価、骨量測定によるモニター、骨粗鬆症の管理などについてであり、ISCDから派遣された講師らが、よくまとまった英語のテキストを使用して、10時間以上の講義を行いました。このトレーニングコースは、骨量測定の系統的な教育であり、測定の標準化を目的としています。この後、試験があり、11名の受講者がCertified Clinical Densitometrist(CCD、認定骨量測定士)になりました。

 今後、日本でもCCDの養成に努め、骨量測定のQCとQAの向上を目指す必要があります。

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