耳よりな話トピック
健康づくりを骨から始めましょう
執筆予定者バックナンバー

野菜や果物の成分が骨粗鬆症を予防するか 上原 万里子
歯と骨とウロコの話 田畑 純
口腔内のガン 渕端 孟

野菜や果物の成分が
骨粗鬆症を予防するか

 
上原 万里子

 大豆の成分であるイソフラボンは、以前から骨粗鬆症を予防する効果をもつことで知られています。しかし、他の野菜や果物の成分はどうでしょうか?この議論は数年前から始まりました。

 きっかけは、1999年、英国の有名科学雑誌の「ネイチャー」に、たまねぎにはラットの骨量の減少を抑制する効果があるという記事が掲載されたことです。そして、翌年、骨の専門誌に、そのたまねぎの中に含まれるフラボノイドの一種である「ルチン」という物質が、その効果をもつ成分で、実際にルチンは、卵巣を摘出した骨粗鬆症モデル動物(ラット)の骨量減少を抑制することが報告されました。

 また同じ頃、今度は米国の有名科学雑誌の「サイエンス」に、コレステロールを体内で合成する際に要となる酵素を阻害する作用をもつコレステロールの降下薬剤には、骨の形成も促進する可能性があることが報告されました。そして、それと並行して柑橘系のフラボノイドは、コレステロール降下薬剤と同じ様な作用により、体内のコレステロールを低下させるという論文も、米国の栄養学雑誌に掲載されました。このことは、柑橘類に含まれるフラボノイドにも、骨の形成を促進させる可能性があることをあらわしています。ごく最近、ヘスペリジンというみかんの果皮に多いフラボノイドが、体内のコレステロールを低下させる作用と共に、骨粗鬆症モデル動物(マウス)の骨量減少を抑制することも確認されました。

 動物に対して効果があったものを、そのままヒトにあてはめるのは難しいことですが、こんな調査結果も出ています。英国のある研究者達は、62人の健常者(女性:44-55歳)の食事調査から、摂取した食品および栄養素を計算し、どの因子が骨の代謝を調節している物質(骨代謝マーカー)と関わるかを検討し、野菜や果物の摂取が骨の健康と深く関与すると結論付けています(2000年)。

 以上のように、ここ数年で、大豆以外の野菜や果物の成分が、骨粗鬆症予防の観点から注目されるようになってきました。野菜や果物はビタミンやミネラルの給源にもなっていることを考え合わせても、骨の健康はもとより、体全体の健康を考える上でも、毎日不足することなく効率良く食べたいものです。最近、野菜ソムリエなる資格もあらわれるなど、野菜ブームで、本屋さんでは、野菜料理の特集記事の載った雑誌や書籍をずいぶんみかけるようになりました。
レストランでも野菜や果物を使ったメニューが見直されてきているようです。そんなところからも野菜や果物をおいしく食べるコツを知って、毎日の食生活に生かせれば良いですね。
うえはら まりこ

東京農業大学大学院修了(農学博士)。
同大学農学部栄養学科助手、講師、ヘルシンキ大学医学部研究員を経て、
1999年より現職(東京農業大学応用生物科学部栄養科学科助教授)。 
専門分野:栄養生理学
研究テーマ:植物成分の代謝および機能性の検討(主に大豆イソフラボン・柑橘系フラボノイドについて)。
ミネラルの過不足がビタミン・脂質・骨代謝に与える影響を精力的に研究中。
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歯と骨とウロコの話

 
田畑 純

  先日、指宿(いぶすき)の浜辺を散策していて、白骨化したハコフグを拾いました(図1:体長約21cm)。波が高いときに打ち寄せられ、やわらかいところは小さな生き物たちのご馳走になる一方で、天日にさらされてきれいに白骨化したのでしょう。皮膚の下に見事な骨の甲羅(便宜的に外骨格としましょう)を持っているのがよく理解できる標本でした。一部、壊れているところから中を覗くと、中にはちゃんと普通の背骨やヒレにつく骨(いわゆる内骨格)があるのがわかりました。つまりハコフグは内骨格に加えて外骨格まで持つようになったかなり特殊な魚のように見えました。

 この外骨格は、亀の甲羅のように多角形のタイルが隙間無く継ぎ合わされてできていて、防御のために発達した構造のように見えました。そして形や位置から考えてウロコが変化してできた骨板のように見えました。
そこで、これを確かめるために、タイルを1枚はがし、両面から薄く薄く削った切片を作ってみました(図2:研磨切片)。そして、これを顕微鏡で見て、とても驚くことになりました。なぜなら、骨特有の骨細胞などが一切みつからず、歯に特有の象牙細管様の構造や死帯と呼ばれる構造が見えたからです(図3:図2の四角で囲んだあたりの拡大)。それで、これはいったいウロコだろうか、骨だろうか、それとも歯だろうか、と考えこむことになりました。また、全体として外骨格がこれほど見事に出来ているのも不思議です。それで、魚のウロコの分類や進化、骨の進化、歯の進化をいろいろと文献で調べてみることにしました。

 魚類の中でもっとも古いのは、甲冑魚の仲間だと言われています(図4:「脊椎動物デザインの進化」海游社から引用)。この甲冑魚というのは、全身または体の前半分をヨロイのような丈夫な外骨格で覆っている魚です。この外骨格を形成しているのは、アスピディンと呼ばれる象牙質に近い性質のものでした。また、この魚の内部の骨はまだ軟骨で出来ており、口にはまだ顎(あご)がなく歯もありませんでした。図4に示しているのは異甲類に属するプテラスピスという種類で、甲冑が頭部では頭蓋骨の様になっていて、胴体ではウロコの様になっています(=膜内化骨とウロコの始まり)。この甲冑魚はやがて棘魚類へと進化して、甲冑の一部から顎ができ、そこに歯が生えるようになりましたし(=顎と歯の始まり)、軟骨だった内骨格には外骨格の骨細胞が移入して硬骨化するようになったようです(=軟骨内化骨の始まり)。こうしたことから、魚類はもともと外骨格を先に完成させ、その外骨格から、頭蓋骨、ウロコ、顎、歯、内骨格の順に形成してきたと考えられます。また、象牙質と骨では、象牙質の方が起源が古いようです。

 このように進化の過程を知ると、ハコフグの外骨格やその構造もそれほど特殊ではないと思えてきます。ウロコがタイルのようになって甲冑のような外骨格を作るのも、その構造が象牙質様であるのも、すべてご先祖様がやっていたことを一部再現しているにすぎないのです。もともと、歯、毛、汗腺、ウロコなど体表の器官は、構造や発生においてよく似ているところがあるのですが、最近では共通の遺伝子が働いていることもわかってきました。進化の道筋からするとまずウロコでこうした遺伝子の働きが確立し、その後、歯や他の器官に流用されるようになったと考えるのが自然です。魚のウロコの研究が、いずれは歯の進化やヒトの疾患など多くの謎解きに結びついていくかもしれません。ハコフグを拾ったおかげで、目からウロコの連続で、少しばかり視野が広がった私でした。

たばた まこと

1961年生まれ。北九州市小倉で育つ。九州大学理学部生物学科を卒業し、広島大学大学院(総合科学部)で博士(学術)。1992年より大阪大学歯学部口腔解剖学第1講座・助手。2001年より鹿児島大学歯学部口腔解剖学第1講座・助教授。専門は歯の発生生物学。

趣味は自然観察や散策、音楽鑑賞、読書。鹿児島では豊かな自然や温泉、美味しいものを満喫しています。留学時のフィンランド滞在記を中心にしたピヒラヤ・サイト、自作ソフトや「"展覧会の絵"の展覧会」、恩師の「シルクロードの旅」などからなるサクラ・サイトというふたつのHPを公開しています。どうぞ、おいでください。

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口腔内のガン

 
渕端 孟

厚生労働省の統計によると、平成12年1年間のわが国における死亡者総数は961,653人で、このうちの30%強、295,484人の死因はがんで、そのうち5,066人は口腔、口唇、咽頭のがんが原因で死亡している。もちろんがんは全ての死亡原因の中でトップを占め、この傾向は昭和56年から20年以上も続いている。このことは言い換えると、わが国では約2分毎に一人ががんで亡くなっていることになり、口腔などのがんよっても約2時間毎に一人が亡くなっている計算になる。

 口の中にみられるがんは、舌、歯肉(歯茎)、口底(舌の下の部分)や頬など、口の中の粘膜にできる癌腫がそのほとんどを占めている。ほかにも上顎洞(上顎骨の中の空洞)にできる癌腫や肉腫が下方ないしは下側方に進展して口の内に症状が見られる場合や、まれには身体のほかの場所に出来たがんが口の中に転移してきたり、肉腫、悪性リンパ腫などが顎骨や口の中に発生する場合などもあるがいずれも頻度はそれほど多くない。

 口の中にできる癌腫では、舌癌が最も多く約半数を占め、次いで歯肉、口底の順に多く、頬などその他の部位にみられるものは比較的稀である。舌癌の場合、約70%が舌縁部(舌の両側の縁)にみられ、ついで舌の下面にみられるものが約20%で舌の上面のものは稀である。歯肉癌では下顎の奥歯の周りに出来るものが多く上顎の歯肉にできるものはそんなに多くない。そのほか口底や頬のものは隣接する部位にまたがるものも多い。

 昨今、がんは決して不治の病とは考えられていない。しかし、口のがんは直接眼で見る事ができるものが多いので、早く見つけて手術、放射線、化学療法、など適切な治療を行えば完全に治す事もそれ程困難ではない。がんの全貌はいまだ明らかでなく、疫学的に肺癌や咽頭癌と喫煙や飲酒の因果関係などが明らかにされているが、いずれもこれといった決め手がないのが現状である。口腔がんについても同様、はっきりとした因果関係を示す資料は少ないが、喫煙、不良な口腔衛生の状態、香辛料、アルコール
等の噂好物や不良補綴物(入れ歯やブリッジなど)、鋭利な歯などによる慢性的な刺激が誘因となりうるとも考えられている。

 口の中のがんを早く見つけるにはどうすればよいのだろうか。口の中にできるがんの多くは扁平上皮癌と呼ばれるもので、肉眼的にはカリフラワー様の特徴的な外観を呈するものが多く見られるが潰瘍を伴うものも少なくない。しかしごく初期のものは専門医でも視診だけでは診断が難しい物もあり、口の中に傷や腫れ物ができて1週間以上経過しても一向に良くならない様な場合や、歯を抜いたり口の中を切開したりした後の傷が治りにくいような場合は再度速やかに診察を受ける事が必要である。また受診して洗浄、薬物塗布、投薬などの対症的な処置を受けても症状が取れなかったり、さらに悪くなったりする様な場合にはためらわずに第二、第三の医師を訪ねる事も必要である。

 口のがんの場合、初期のものでは80%以上の高い率で治癒が期待できるので、まずは自分自身で早く異常に気づくことが大切である。では、口の中のがんは初期にはどんな症状が現れるのだろうか。素人考えからがんは痛みがないと考えている人は意外に多いらしいが、口腔がんの患者さんの多くが割に早い時期に痛みによって異常に気づいている。
ほかに傷や腫れに気づいている場合も多いが、注意すべき点は「がんは痛くない」はずなので、単なる口内炎と思って異常に気づきながらも放置していたと言う人が少なくないことである。ほかにも歯痛、歯の弛緩動揺、出血、口が開けにくいなどで気づく人もあるが、前に述べた上顎洞がんの場合には、鼻づまり、鼻血、眼がとび出る、頬の腫れ、頭痛などの特有の症状を伴っている場合も多いので、それらの症状にも注意を払う必要がある。
しかし一方で、初期には大した自覚症状がないままに経過することも多く、受診しても単純な口内炎や褥創(歯や補綴物があたって出来る傷)と誤認し易い事もあり、場合によっては小さな糜爛や白斑、潰瘍、また丘疹状のわずかの隆起や、歯痛、歯の動揺、歯周炎などの些細な症状にも注意を払うことが必要である。

 健康で良質な生活を維持するためには、まず自分で自身の健康について気配りを忘れない事が必要である。高齢社会における健康で楽しい生活は口の健康から始まるとも言われており、もし上記のような症状に気づいた場合はためらわず歯科、口腔外科や耳鼻科の医師に相談することが大切であろう。
ふちはた はじめ

昭和10年 大阪生まれ。昭和35年大阪大学卒業。
大阪大学医学部助手を経た後、昭和47年歯学部放射線学講座の教授。
平成11年4月1日、退官まで大阪大学学長補佐、国内外で病院長を始め、多数の要職をつとめる。
また、国際歯顎顔面放射線学会会長。放射線治療を本格的に取り組んだ先駆者。

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