第22回 「 世界遺産1周年、熊野を歩く 」

久保美智代 フリーアナウンサー 世界遺産ウォッチャー
 

 熊野古道が世界遺産になったのは去年7月。
1年が経っても、古道ブームは続いています。その秘密を探ろうと、私も歩いてきました。

 熊野古道は、本宮、那智、速玉の熊野三山(和歌山県)への巡礼の道です。平安時代、貴族たちの間で流行となり、後白河上皇は最多の34回も詣でています。 私も当時の人の気持ちになって歩こうと、平安装束を借りました。

 場所は、熊野那智大社へと続く大門坂。うっすらと苔むした石畳の階段です。両脇には、樹齢400〜500年といわれる杉の大木が並んでいます。その中を、桃色の着物姿で笠をかぶり、そろりそろりと歩いて上がる私。首から提げている小物は薬入れ、胸にかけた赤いたすきは、魔よけだったそうです。何十日もかけて京都から歩いてきた古人のことを思うと、どちらもなくてはならないもの。その苦労を思いました。

  初夏とはいえ、日差しは強く、着物は厚い生地。当然暑いのですが、杉木立の中は、ほとんどが日陰で、我慢できないほどの暑さではありません。それよりも、着物のすそを踏まないよう、平安時代の女性らしくと緊張気味に上がりました。30分ほど歩くと杉林を抜け、途端にまぶしい日差しが目に飛び込んできました。それから私が見たものは……。ゴーォォォという轟音をとどろかせ、一気に流れ落ちる那智の滝でした。

 高さ133m。熊野那智大社の別宮・飛瀧神社の御神体です。あまりの高さに笠をあげて見上げると、滝は白く輝き、顔にはわずかに湿り気を感じました。なんて気持ちがいいのでしょう! 世界が一変したようでした。
  巡礼者にとっては、長旅の果てに見た神の輝きだったに違いありません。古道を歩く楽しみは、単に自然の中の清々しさだけでなく、先人たちの気持ちに思いを巡らせることにあると思いました。こうした道が1000年以上たった今も残っていることを、心から素敵に思いました。

 
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