第15回 草原の贈り物の話
                 酪農学園大学酪農学部食品科学科助教授 石井 智美 氏 

 

《プロフィール》
いしい さとみ
北海道在住。酪農学園大学大学院博士課程修了・農学博士。
北海道大学大学院文学研究科修了・文学修士。
現在、酪農学園大学酪農学部食品科学科助教授。専門は微生物学・栄養学・文化人類学。遊牧民宅で数回の住み込み調査を行うほか、民族飲料「馬乳酒」の持つ機能性について研究中。著作にアジア読本シリーズ「モンゴル」、「チーズの文化誌」(ともに河出書房新社)共著、「食と大地 」(ドメス出版)共著、「食文化入門」(弘文 堂)共著など

                           

 8月中旬からモンゴルに行ってきました。今年は雨が多く草がよく伸び、家畜も太ってとてもいい年だと遊牧民たちは笑顔でした。



 そして今年の夏の話題は大相撲です。あれこれあったものの、27,28日には初の大相撲モンゴル場所が開かれました。テレビでも盛んに宣伝されていました。モンゴル人力士のみならず、日本の力士も詳しく紹介され、これは○○関と名前が知られていました。私は入れ違いで帰国したので、直接見ることは出来ませんでしたが、子連れの横綱など大いに盛り上がったようですね。日本と同じく午後6時には終わってしまうことが、モンゴル人には残念だったそうです。

 続いてモンゴル初の金メダリストの誕生に国中が沸きました。彼が金メダルを取った夜は、首都ウランバートルのスフバートル広場に大勢の人が集まり、喜びを爆発させて喧騒の巷と化しました。終夜クラクションが鳴り続け、周辺に住む人々は眠れず、皆寝不足になったそうです。

 私は草原で、乳製品の調査をしているのですが、今回、ボルガン県に行きました。この地名を聞いてぴんときた方はモンゴルについてかなり詳しい方でしょう。そうです今回のモンゴル初の金メダリストの出身地です。

 偶然(凄い確率)ですが、聞き取りに伺ったゲル(移動式天幕住居)の奥様(42歳)は、メダリストのいとことのことでした。そして同じ日に、彼と同級生だったという祝勝会帰りの方々とも食堂で一緒になりました。本当に皆さん大喜びでした。

いとこの方からは、「彼が金メダルを取れたのは、馬乳酒を飲んで育ったからだ」(一堂大いに頷く)「彼は馬乳酒が大好きだよ」。とのお話が伺えました。これは現地でなければ聞き得ない情報です。馬乳酒って凄い飲み物なのですよ。詳しくはこのモンゴル便りのバックナンバーを読んでください。ボルガン県は世界で一番おいしい馬乳酒があるところとモンゴルではとても有名です。


 ちなみに金メダルを取ると「お祝い」が気になりますが、草原の地方自治政府からのプレゼントはなにかといえば、「ウマが5頭」だそうです。ゲルで教えていただきました。これには続きがあって、モンゴルで言うところの賞金となるウマはウマでも、アズラカという種馬です。
  種馬だけのプレゼントではなく、そこには、アズラカ1頭あたり30頭のメスウマがついていて、なんと、計150頭のメスウマもあわせて贈られたそうです。草原ならではプレゼントで一財産となったそうな。ウマ群の世話は一族でするそうです。国が変わるとプレゼントも本当に様々ですね。きっとそれらのウマからおいしい馬乳酒をつくるでしょう。このボルガン県の馬乳酒は本当においしいものでした。もう草原は9月になると雪の季節です。