最終回 スイスはおいしい?

赤 単 
 
 
 

 長い間会社員生活をしていると、カチンとくることは多々あります。数年前「バーゼルかぁ。あそこはなーんもないとこだけど、しっかりやってきてな。」と別れの挨拶をした上司のことばもそのひとつです。この赴任はやっぱり左遷だったのかと悟った瞬間でした。それほどまでに、まずい(食べ物がない)、つまらない(遊ぶ場所がない)、不便だ(日曜日はお店が休み)といったマイナスのイメージが、日本の職場では定着していました。

 確かに、食べ物に関しては、赴任直後に「味付けが変だな。」と感じる場面が少なからずありました。社員食堂ではポテトがドン、温野菜がバン、お肉がドサッと山盛りになるばかりで、いわゆる旨味がないといえばいいのでしょうか、ただ味だけがするとう感じです。


 ですから、昼ごはんはカフェでパンとチーズとヨーグルトで済ます場合が多くなりました。というのも、私がスイスで好きな食べ物はチーズそのものでして、その歴史、種類たるやフランスに負けません。スーパーに行けば、ありとあらゆるおいしいチーズの中から、お気に入りを探すことができます。有名なのは、グリュイエール、エメンタールでしょうか。どちらも生産地名でして、グリュイエールはとてもラブリーなお城のある集落ですが、この町で食べるチーズパイはべらぼうにうまいので、マニアックな旅行をされる方にはお奨めできます。


 また、代表的なチーズ料理であるフォンデュ、ラクレットもいいですね。トロトロにとけたエメンタールチーズに
パンやジャガイモを和えて食すだけの、極めて単調な食事ですが、つい数十年前までは食糧に乏しかったスイスの実情を思い起こさせる、素朴なご馳走だと思うのです。


 こちらではフォンデュのもと(味つきチーズの真空パック)のようなものが売られており、それを親戚に送ったところ、意見は真っ二つに別れたようです。年上の甥は「臭い、もう飽きた。」、年下の甥は「そこがいいんだよ。」といったそうです。年下の甥のお小遣いを増やしてあげたいですね。


 ということで、今や私の身体の肉や骨は、ほとんどスイスの乳製品によって作り上げられているといっても過言ではありません。もちろん、フランス、イタリア、スペインなどの海の幸に恵まれた国へ出かけると、料理の旨味の違いは歴然としています。ですが、もう慣れてしまったので、どうってことありませんというのが本音です。


※3月末に日本に帰国することとなり、残念ですが、今回が最終回です。
今まで スイス便りをご愛読いただき、ありがとうございました。 
 
マスコット骨犬君